[出来損ないの悪魔]



新しい学年になった
植木とクラスが離れてしまったことは残念だったが、
いつでも会えるし、新しいクラスも充実していた


++++++++++++++

やっと、午前授業を終え、昼食の時間になったときだった

「ねぇ、あいちん知ってる?」
弁当を出しながら森に一人の女子が言った

「え?」
右手にパンを持ちだしながら、森は声をかけた同級生の方へと向いた

「何を?」
あいは首を傾げながらパンの袋を開けた

「“出来損ないの悪魔”のこと」

彼女はにんまりと答えた

「なにそれ?」
「えっ、知らないの?」

森から帰ってきた返事に彼女は目を丸くした
あまりに彼女が信じられないと言わんばかりの反応だった

「悪い?」
森は頬をふくらませた

「すねないでよ、あいちん〜 今教えるから〜」

彼女はそんな森を見て困った様に笑い
そして声をひそめて森に話し始めた



「“出来損ないの悪魔”っていうのは翼が片方しかない悪魔のことでね
 その翼が片方しかないっていうのは普通の悪魔より力が弱いの証拠なんだって
 でね、その力が弱い悪魔は力を維持するために、あることをするの…」

彼女は人差し指を森に向ける

「あること?」
森は眉をよせ、彼女は不敵に笑う

「人殺し」
「‥え」


森は背中に妙な汗が流れるのを感じた


「人を操って、その人のまわりの人を皆殺しにするのよ
もちろん、操られている人は自我がないから自分が人を殺していることは、
わからない…ま、催眠術にかかってるような感じね
でも、一つだけ、それを解く方法があるの」

「な、なんなの?」
ごくりと森は生唾を飲み込んだ

「その人にとって一番大切な人を殺すの」

淡々している彼女の口調がよけいに体を寒くした

「それでね、一番大切な人を殺した瞬間に
今まで自分のやったこと全てがわかるの」

「………」
何もいえない‥というより妙な悪寒が体に巻き付いて離れない

「まあ、こういう怪談なんだけどね☆」

その茶目っ気たっぷりのウィンクと笑顔に森は引きつった笑いをし
気分を直すためペットボトルのふたを開けお茶を口に流し込んだ

(あ、このお茶おいしい)
ささやかな幸せが刹那、この言葉により幕を閉じた

「ちなみに悪魔は学校をよく狙うそうです!気をつけろ☆」
飲んでいるお茶が急にまずくなった気がした

(なんか、お昼食べれない気がしてきた‥)


       ****


その後の授業も何やら身が入らなかった
もちろん原因は昼休みの怪談

(“出来損ないの悪魔”か)

そう、それが頭から離れない
普段ならそれほど気にならないはずであろう
だが、気になってしまうのだ


『一番大切な人を殺すの』


特にこの部分が


(‥やだよなぁ、解く方法が『一番大切な人を殺す』なんて殺生なこと)

頬杖をついて、ふと窓の方をみた



今日も青い空が広がっている
校庭では体育をしているクラスの声が響く
手を伸ばしたら届く位置にある木の葉も大分色づき始めている
何一つ変わらない風景だと思った


片方しかない黒く輝く翼を持った【誰か】が木の枝に乗って
森を見ている以外



「?!」
目を疑った



その【誰か】は森に微笑みかけると左手の甲を彼女に見せた

(だめよ…!)

見てはいけないと思うのに体が言うことをきかない

(見ちゃだめ…!)

その左手の甲には何か紋様が描かれていた

(見ちゃだめ見ちゃだめ見ちゃだめ見ちゃだめ…!)

見てはいけないと思うのに目がそらせない 

(見たらだめなの…!!)

頭に動けと指示が出ているのに体が動かない


【誰か】は紋を森に見せながら唇を動かす


『S T A R T』


【誰か】は言い終わると更に微笑む
それと同時、森は体の中で何かが起きていることを感じた

血が逆流し、脈が速くなり、胸が熱くなる

(嫌‥!!)
拒みの心の声をかき消すほど心臓が大きく鳴ると彼女は思考が無くなった



「森!こら、授業中に外を見るな!」

教師の声が彼女の耳に届く
彼女はゆっくりと振り向く

その目はどこか虚ろ

「?」

その教師はそんな彼女に気づき森の席まで歩く

「どうした、気分でも悪いのか?」
彼女の顔をのぞき込んだ


瞬間
生々しい音が教室に響いた


「うああああああ!」
「きゃあああああ!」
クラスメートの声がこだまする

それは森の右腕が教師の心臓を貫いた音だった

教師は目を見開いたまま動かない
口から胸から止まることなく血が流れ、森の制服を染めていく
森が右腕を抜くと教師は倒れ、床に机に血が広がる



あたりが赤い色になってゆく



クラスメートの一人が廊下に誰かを呼ぼうとしドアを開けようとした

瞬間
ドアは赤く染まり、クラスメートの首が床に転がる

「うあぁあぁぁあああああ!!」
また森の制服が染まり、声がこだまする

それは彼女が左手でクラスメートの首を吹き飛ばしたのだった

虚ろな目が皆の方へ向くと
少しずつ…少しずつ…

その声は消えていった


+++++++++++


終わりのチャイムが鳴り響いた
植木は体育で流れた汗をぬぐった

「あっつー」

片手でパタパタと仰ぎながら植木は授業で使ったハードルを片づける
片づけをしているのは植木を含めて男女五人
彼らは見事、先生に捕まってしまったのだった
もっとも植木は元々片づけるつもりだったが‥

「よし、ラスト!」

もう、倉庫にいるのは植木一人になっていたらしい
皆が校舎に向かっているのが倉庫から見えた
最後のハードルを片づけ後に続いて校舎に向かった




「‥ん?」
昇降口に着いて植木は妙な違和感を覚えた

校舎がとてつもなく静かなのだ
いつもならもっと笑い声があるのに

(気のせいか?)
いや、気のせいじゃない‥この静かさは変だ…

まるで‥
「誰もいないみたいじゃんか‥」

おかしい…一体何が‥?
植木は当たりを見回しながらゆっくりと自分の教室に足を動かす


「うぁあああああぁぁぁぁぁああ!」
「!?」

上の階から植木の耳に誰かの悲鳴が届く
その声にただごとではないと感じる

すぐさま彼は階段を駆けのぼった


階段をのぼっていくと生臭い匂いが鼻の中を通っていく

気持ち悪い‥
なんだ、この匂い…?
吐き気がする‥

「!」

階段のぼりきるとそこに視えたのは
ついさっきまで一緒に片づけをしていたクラスメイトの怯えた横顔

「どうしたんだ?!」

彼は植木の方も見ず、ただ震えるだけ
植木は彼に近づく

近づいた途端、凍り付いた

「なっ…?!」

赤で染まっている床と壁
仰向けうつ伏せで倒れている生徒と教師
その傍らで一つ二つ首が転がっていた

地獄絵図だった

「何が…あった…だよ…」
あまりの状況に頭がついていかない

コレは夢なのか?
コレは夢じゃないのか?
コレは現実なのか?
コレは現実じゃないのか?


考えていると誰かの足音が聞こえた
振り向く二人
そこにいたのは

「…森?!」

制服を赤に染めた虚ろな目をしている森だった

「森、平気か?!」
植木は森に駆け寄ろうとした
しかし、森は植木を通り越して彼のクラスメイトの方へと走った

「えっ…?」
そのまま駆け寄ろうとした姿勢で森を目だけで追う

「!?」

目に映ったのは
少女が少年の胸に右手を貫いているところ

言葉を失った

森は無造作に右手を引き抜いた
彼から発せられる血飛沫
それを何も気にせず浴びる森

「も‥り…?」
ようやく言葉が出た
けれど続けられない

否、何を言えばいいのかわからない

今、自分の目にしたものは一体なんなのか
それさえも考えられなくなる


その声に反応し、虚ろな目が植木を映す

瞬間
彼女が植木の目の前にいた

「なっ?!」
虚ろな目に自分が映る
素早く彼女が手を振り上げる

「っ!」
彼は足を踏み込み後ろに飛ぶ
彼女の手が空をきる

「‥‥」
彼女は避けた自分をやはり虚ろな目で見つめている

体が酸素を異様に欲しがる
たったこれだけの動きに汗が流れる

「森、なんで‥」
たったこれだけを言うのに息が続かない

また彼女が駆け出す

「森っ!!」

ありったけの声で彼女の名を叫んだ
だが彼女はとまらない

また手を振り上げる

「森、やめろ!!」
もう一度すがる気持ちで叫んだ

「‥‥」
手が振り上げた位置でとまった

「…森?」

森の目が光をおびた

「う…えき…」
「森‥!」
彼の目にも光がおびる


瞬間
彼女の手が彼の皮膚を裂き心臓を貫いた


「がっ」

口から血が溢れ出る
体が動かなくなるのがわかる
目がかすんでくる


「‥ご‥め‥」
言いかけて完全に停止した



森はゆっくりと彼を手から引き抜く

引き抜いたとき全てがフラッシュバックする
今、自分の目の前にある【大切な人】を見る


「はははは」
自分を嘲る笑い声

「ははははははははははははっ!!」

彼女の笑い声が何もない学校に響いた

そして笑い終わると彼女は一つ涙を流し力尽きた





【誰か】はその様子を見て静かに妖艶な笑みをもらした

 

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印屋さんありがとうございました!

「出来損ないの悪魔」すごくおもしろかったです。

これからもよろしくおねがいします。

                                           燈頼ヤ 硝子

 

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